とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第59回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


あの日の空

「あの日の空」

新潟県 I・S(学生 10代)

 小学生から中学生に上がったときのことです。私はもともと、自分から何かをするというのが苦手で、中学生という新しい環境に慣れるまですごく時間がかかりました。新しいクラスにもなかなか馴染めず、クラスメイトからの押しからも強くありませんでした。色々な性格の人がたくさんいるというのは自分でもわかっていましたが、当時の私にはそれがものすごく窮屈で苦しいものだったのです。
 それから私は、無心になればなにも感じないんだ、と考え、段々と心を閉ざすようになりました。
 いつものように、斜め下を見ながら一人で帰っていたときです。後ろから、まだ幼稚園生ぐらいの女の子が走ってきました。前の方にいた母親の元で言いました。
「お空がすごくきれいだよママ。ちっちゃい鳥さんもチュンチュン言ってるよ!」
私はその女の子が言っていた空を見ました。久しぶりに見た空は、丁度、夕焼けの空でした。温かい色がきれいにグラデーションがかかっていました。川に反射した空はすごくキラキラしていて、それに反応するように鳥も鳴いていました。さっきまでうっとうしいなと思っていた風も、その瞬間は嫌なものをすべて吹き消してくれたかのように心地よいものでした。
「きれいな空だね」
と、その子の母親は言いました。親子そろって優しい笑顔でした。私は泣きそうになったのを、ぐっとこらえます。
 今までの窮屈で苦しかった思いが、女の子の言ったきれいな景色と風でスゥッとなくなった気がしました。
今では、帰りに空を見るというのが習慣になっています。あの日の出来事は偶然だったのかもしれませんが、今の私があるのは、その小さな女の子のおかげなのです。
 空を見せてくれて、ありがとう。