とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第59回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


ほわわわっ

「ほわわわっ」

石川県 K・K(無職 40代)

 春だった。
うららかな午後の帰り道で、小学生の女の子を見つけた。
ランドセルの中身を拾い集めている。ふたが閉まっていなかったみたい。通行人はいるけれど、みんな知らんふりだ。女の子はへの字口になっていた。
手伝っていいのかな?嫌がられないかな?
への字口が決め手になって、私は一緒に拾い集めた。
消しゴム、鉛筆、連絡ノート。
そして「はい、どうぞ」と差し出すと、
私を見た女の子の口元が、ふっとゆるんで、

にこっ

その時だった。私の心が「ほわわわっ」となったのは。どうしたんだろう?ドキドキして、すごくうれしい。
走り去る女の子の後ろ姿を、私は
「ほわわわっ」「ほわわわっ」
としながら見送った。

 あれからずいぶん経つけれど、私が知らんふりをしないのは、あの時の
「ほわわわっ」
を、忘れたくないから。