とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第59回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


いちごと弟

「いちごと弟」

山形県 S・S(会社員 20代)

 実家に帰省した際、弟と久しぶりに再会した。会えたのが嬉しくてその成り行きで私は、高校生の時に行きつけだった喫茶店に二人でパフェを食べに行こうと誘った。姉弟揃って食の好みが似ているのを中々決まらないメニュー表を見ながら再確認しながら、昔よりちょっと無愛想になってしまった弟に、
「私はフルーツパフェを食べるから、そっちのいちごパフェ食べなよ」と促した。
 弟はいちごが大好物だった。小さい頃から、いちごヨーグルトにいちごオレ、いちごが付く物は全て弟のものだった。もちろん、私もいちごが好きだった。しかし、四つ上に生まれてしまった運の尽き「お姉ちゃんなんだから」という言葉で私の口には入らなかった。
事件が起きたのは、母の誕生日。ショートケーキの上にあるいちごを弟は勿論欲しがった。主役の母のも、横に座っていた父の分も食べた。そして、私のも。その日、私は契約書を書いた。“人のいちごを欲しがらないこと”涙で文字が所々霞んであるその契約書は今でも冷蔵庫に貼られてある。
 そんな事を思い出しているとパフェ達が運ばれてきた。一枚の取り皿と一緒に。そのお皿は注文の際に弟が頼んでいた皿だった。熊の親子が手を繋いで星空を見上げるとても可愛いらしいお皿で、思わず見惚れていると、弟が自分のいちごパフェを何度か掬い、その取り皿に移し、私に渡してきた。まさか貰えると思っておらず、びっくりした私に、弟はこう言ってきた。
「分けたら姉貴もいちごパフェ食べれるでしょ。昔から好きだったじゃん、いちご」