とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第59回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


一緒にみた青空

「一緒にみた青空」

兵庫県 E・T(無職 50代)

 昨年、入院した所は六人部屋だった。私は、廊下側だったので窓から空や木々が見えた。隣のベッドに入った七十代半ばのSさんは両側をカーテンで覆われ、何も見えなかった。自力では立てない病態で原因不明の吐き気や、全身の激痛に苦しみ、過去にガンの大手術をしたと聞いた。
 ある日、私がシャワーに行く時、廊下の窓一面、鮮やかな青空が広がっていた。すぐに、Sさんに見せたいと思った。コロナの感染者数が激増していた頃だ。「カーテンを開けるなんてダメ」と看護師さんに叱られるかもしれない。それでも「今日の空、すごく綺麗。シャワーに行く間、開けておくね」と言うと、「あっ、本当に綺麗」と言った。シャワーから戻るとカーテンは閉められていた。看護師さんに、注意されたのかどうかは、聞けなかった。
 私の退院が決まると、「寂しい」と連発された。退院前日になって、Sさんは「ガンの再発で、もう手術は出来ない」と告げられていた。私は、動けるのでちょこちょこと手伝っただけだが、帰る時に商品券を四千円も渡された。「罰が当たる」と断ると、怒り出したので受け取るとお礼を言われた。もっと、大きな病院に相談にいってみると話していたので緩和を祈り、お別れした。
 数ヵ月後、そこの看護師さんに、偶然にも外出先で声を掛けられた。Sさんのことを尋ねると、私が退院して三週間後に亡くなったと聞いた。そんなに早かったのかと愕然とした。あんな、青空を見たのは、おそらく最後だったのではないだろうか。見せてあげて良かったと思っている。
 私も、重症の慢性痛を患い、仕事も出来ない生活だがまだ歩けるし、空や海を見ることは出来る。それだけでも感謝して、今後も出来ることがあれば人を助けたい。たった二週間のお付き合いだったが、カーテン越しに姉妹のように一杯、お話した。頂いた商品券で小さなテーブルを購入した。それで、このイラストも描いた。「いつも一緒よ」と考えながら。