とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第59回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


「おはよう」っていいたくなった

「『おはよう』っていいたくなった」

京都府 M・Y(学生 10代)

 「ガゴンッ」何の音だろう。桜の蕾が膨らみはじめた去年の春、驚いて外に飛び出した。家の近くのマンションの工事が始まっていた。
 「おはようございます!」とやさしい声。誰かと思ってふりかえると、知らない人だった。人見知りな私は急な挨拶に戸惑い、返事をせずに家へ逃げ帰ってしまった。これが交通誘導のおじさんとの出会いだった。
 次の日。学校に行くついでにまたそこを通る。
「おはようございます」
と声をかけられ、驚いて後ろを振り返った。
あのおじさんだった。
「…………おはようございます」
初めての挨拶の返事は、蚊の鳴くような声になってしまった。次の日もまた、そこを通った。やっぱりあのおじさんは、
「おはようございます」と挨拶をしてくれた。やっと、
「おはようございます!」
とちゃんと返せた。なんか嬉しかった。
 おじさんと挨拶をするようになってからしばらく経ったある日。あまり話したことのない隣の席の小泉君に話かけてみたくなった。
「小泉君!おはよう」
「…………」
無視されてしまった。次の日、挨拶しなければよかったと少し後悔しながら教室の中へ行くと、
「おはよう」
と後ろから小泉くんの声が聞こえた。横を向いても、後ろを振り返っても誰もいない。もしかして私に?嬉しい気持ちでいっぱいになり、挨拶をして良かったと思った。
 あのおじさんとの出会いから約一年が経とうとしていたとき、新しいマンションが完成した。あれ。あのおじさんがいない。工事が終わったもんな。少し寂しい気持ちになった。
もう一度会えたなら今度は私が先に、「おはようございます」と感謝の気持ちを伝えたい。