とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第57回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


あと一枚のエプロン

「あと一枚のエプロン」

愛知県 M・O(主婦 30代)

 いよいよ、春から保育園に入園する息子。
家事や育児に追われながらの入園準備は中々進まず、私はつい実家の母に泣きつきました。
「お母さん、給食用のエプロンを四枚作ってほしいんだけど…」私の頼みを、母は喜んで引き受けてくれました。
母はフルタイムで働いていたのに、「今日も一枚作ったよ!」と夜遅くに嬉しそうに写真を送ってくれました。
 三月末、突然母の職場から一本の電話が入りました。母が倒れ、緊急搬送されたというのです。慌てて病院へ向かいましたが、すでに母は帰らぬ人となっていました。
脳出血だったのです。実家には、母が作ってくれた三枚のエプロンが残されていました
 あまりに急なことに呆然としながらも、悲しみにくれている時間はありませんでした。
来週には息子の入園式と、自分の職場復帰が迫っていました。もうエプロンは三枚あればいいや、と思っていたところ、母が懇意にしていた職場のMさんから「渡したいものがある」と連絡がありました。
息子を連れて近場で落ち合うと、Mさんは手作りの小さなエプロンを一枚手渡してくれました。
 「亡くなる日の休憩時間に、お孫さんの保育園のエプロンがあと一枚で完成するって嬉しそうに話してくれていたの。絶対、心残りに思っているだろうから…。
私が代わりに作って申し訳ないけど、これ良かったら使ってくれないかな」Mさんの思いやりに、涙がとめどなく溢れていきました。
 息子は無事入園し、二人に作ってもらったエプロンを身につけ、楽しい給食の時間を過ごしているようです。
実の母を失い、子育てが一気に孤独になったような気持ちでしたが、保育士さんも良くしてくれ、Mさんをはじめとした母の友人の方も声をかけてくれ、私達親子を見守ってくれる地域の方々がたくさんいるのだと強く感じる毎日です。
一人で子育てはできません。このときもらった優しさを、いつか私も返していきたいと思います。