とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第61回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


心のタッチ

「心のタッチ」

埼玉県 Y・K(主婦 30代)

 小学校にあがってすぐ、息子が「学校に行きたくない」と言い出した。朝からトイレにこもり、翌月には完全に教室に行けなくなってしまった。そんな息子を救ったのが担任のS先生だった。S先生はちょくちょく自宅に来て、息子と遊んだり、勉強をみてくれた。
やがて息子に学校に行きたいという気持ちが沸いてきた時だった。先生が一枚の紙を見せた。
『もくひょう@学校の近くのポストにタッチ』
「無理せずに最初は近くまで行ってみよう」
 翌朝息子はランドセルを背負って自宅を出た。だけど表情は不安そう。しかしポストが見えてきたときだ。
「おっ、よく来たね!」
 まるで太陽のような笑顔。それを見た瞬間、息子もホッとし、満面の笑みを見せた。その後も『タッチ』の目標を次々とクリアした息子。ある時は校門。ある時は昇降口。そして教室の前。だけどそこにはいつも先生がいた。
ただそこにいて、ただただやさしく息子を迎えてくれた。
「よくがんばったね」
 先生と交わすハイタッチ。そのパチンという音は息子のリスタートの合図みたいだった。
 そして半年後。
「今日はクラスの友達とタッチしてみよう」
 校門を入るとすでにクラスの子ども達が待っていた。
「あ!レンくんだ」「ひさしぶり
 照れながら一人一人とタッチを交わす。気づけば息子の頬は手のひらよりも赤くなっていた。その日の帰り道、息子は「ぼく、明日から教室に行く」と言った。半年前には決して見せなかった笑顔。その表情を見るなり、嬉しくて、思わず息子を抱きしめた。
 色んなものに『タッチ』をしてきた息子だが、今ならわかる。息子が本当に触れたもの。
それは校門でもポストでもない。
 心、だ。