とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第57回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


微力ながら

「微力ながら」

愛媛県 N・S(主婦 60代)

 朝五時起床。家事、仕事と嵐のような日々を送って来た。風邪ひとつひかず、元気だけが私の取り柄。しかし、六十歳を迎えた頃から急激に身体の衰えを感じるようになった。老眼が進む。膝、腰に痛み。今まで楽々とこなせていた事が少しずつできなくなってゆく。
 退職し家に引きこもる日々。家族のお荷物になってしまったように感じ、申し訳ないと言う思いで押し潰されそうになっていた。ある日、眼に異常を感じた。白内障と診断され二ヵ月後に手術を受けた。翌日、眼帯を外してもらうと目の前に、何ともクリアな世界が広がっていた。
手術が終わるまでは不安しか無く、院内の様子に気を配る余裕など無かった。改めて院内を見回してみた。待ち合い室、検査室、どこも私より年配の方たちで溢れている。付き添いの必要な方、杖をついている方、怖々ゆっくりと歩く方等。突然、私の目の前でご婦人がよろけた。咄嗟に彼女の体を支えた。
「ありがとうございます」
 彼女はとても丁寧にお礼を言ってくれた。
人から感謝されたのは久し振りだった。私の中に温かな気持ちが甦るのを感じた。自分が白内障を患ってみて、見えない事の不安、不便さがよくわかった。特に術後は片目しか見えない。距離感がわかりにくく一歩踏み出すのにも勇気が必要だった。
 幸い今の私は、付き添いも杖も必要無い。
微力ながら周りの患者さんたちが困っていれば手助けができる。耳の遠い方の耳になり足の不自由な方の杖。そして、手術に不安を抱いている方に自分の体験を話し少しでも不安を取り除く役目もできる。この眼科に私はあと三ヵ月通院する。その間、少しでも多くの方々の力になれたらと切望している。
 白内障友達もできた。私より一回り以上年上の彼女はとてもポジティブ。いつも元気をくれる。落ち込んでなんかいられない。まだまだやれる事は沢山あるのだから。