とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第60回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


つながりのメッセージ

「つながりのメッセージ」

埼玉県 Y・K(主婦 30代)

 昨年八月。私は新型コロナウイルスに感染し、ホテル療養をした。
ここは日中も真っ暗で電気がないと周囲が見えないほど。窓も開かず閉塞的。何よりつらかったのが誰とも喋れないこと。 決まった時間に部屋の前に薬とお弁当が届く。そこに会話も挨拶すらない。
(私はこのまま誰とも喋らずに死んでゆくのだろうか)
 頭の中は常に不安でいっぱいだった。

 しかしそんな私を勇気づけたもの。それがお弁当についていたメッセージだった。
『いまはたいへんだけど、がんばってください』
『ひとりじゃないよ!みんな、仲間だよ』
『僕たちはコロナで最後の大会に出られませんでした。でも患者さんはもっとつらいと思います。お互いに前を向いて頑張りましょう』
ある時は書道部の高校生が。サッカー部のメンバーが。イラストを添えてメッセージをくれる。習いたてのひらがなで書いた『ガンバレ』には書いては消した跡がうっすらあった。
 私はそれを一枚一枚ノートに貼りつけた。くじけそうな時。不安な時。眠れない時。それをボーッと眺めていると自然と勇気がわいた。  『早く元気になってね』と直接言われなくてもまるで言われたように温かい気持ちになった。
 あれから無事に退院し、日常を取り戻した私。今はそばに家族がいて、一緒に食卓を囲める幸せを噛みしめる。
あの閉塞的なホテル療養では『つながり』の大切さを知った。確かに手紙にはおしゃべりをする機能はない。けれど文字を通して相手のやさしさが見える。寄り添う姿勢が目に浮かぶ。
そう。手紙って、一枚じゃなくて、一人なんだ。今はただ見えない誰かのことを思い、少しでも元気になるようにとメッセージをくれた方々へ感謝の思いを伝えたい。
 本当にありがとうございました。