─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───
思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。
これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。
─ 第57回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───
「抱擁の魔法」
大好きなひいばあばは、冬の季節に老衰で亡くなりました。誰にでも分け隔てなく優しく、いつでも穏やかな、たんぽぽのような人でした。
身体がだんだんと弱り入院したと聞いていましたが、学業が忙しくお見舞いができない間に、ひいばあばは帰らぬ人となってしまいました。一度でもお見舞いに行けばよかったと思うことはあります。
しかし、ある不思議な体験から、後悔はしていないのです。
ひいばあばがまだ入院せず、元気に暮らしていた夏の頃に、会いに行ったときのことです。いつもどおり優しい時間が流れ、帰る時間はあっという間にやってきました。
お別れの挨拶に、抱擁を交わした瞬間。身体が触れ合った途端に、私はとめどない涙を流していました。
そのころ私は自分の狭い世界の中で、もがき苦しんでいました。そのどうしようもない苦しみを、ひいばあばは全て受け止めてくれているようでした。「大丈夫」と何度も背中をさすってくれました。涙を流せば流すほど、身体が浄化されていくのを感じました。
身体を伝う温もりと一緒に、私は生きていく上でのお守りのような何かを受け取ったような気がしました。私は、この別れはいつもの別れではないことを、ぼんやりと悟りました。
あの抱擁と涙があったから、私はひいばあばときちんとお別れができたと思えるし、今も言いようのない苦しさに襲われるときがあるけれど、ひいばあばが見守ってくれているような気がして、前を向けるのです。