とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第57回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


ありがとヨ!

「ありがとヨ!」

千葉県 K・W(無職 70代)

 「流行性の風邪です」と掛かり付けの開業医は診断したが一向に腹痛が治まらない息子。思い切って総合病院に入院させた日の深夜、声がかぼそくなり土気色になる顔に「これは風邪じゃない!」と妻が看護婦詰め所に三度掛け合った。
 やっと来た当直の医師は息子の腹に手を当てるなり、「すぐ手術です」と慌てた。急性腹膜炎だった。
 手術が終わり、医師が血まみれの小さな肉の塊の入ったトレイを見せながら言った。
「極めて危険な状態でした。この子の命を救ったのはお母さん、あなたです。あなたの粘りです」

 その息子が高校の卒業間近に土下座してこう宣言した。
「俺はミュージシャンになる。経済的には絶対迷惑はかけないからいいだろ」
「バカな!」と呆れる父に息子は痛いところを衝いてきた。
「幼稚園児の頃に俺が死にかけたとき、オヤジ、言ったよな。『子供は生きているだけで親孝行だ』と。まあ、そういうことでどうだ?」

 そんな次第で髪を紫に染めて歌って踊っていたキリギリスが三十歳直前に足を洗い結婚もし、私と同じ血液型・同じ蠍座の初孫をプレゼントしてくれたのだった。
「オヤジ達の結婚記念日のお祝いを計画していたのに」と、残念がる息子を私は怒鳴りつける。
「こんな素晴らしい贈り物で祝ってもらえる夫婦がどこにいる!」