とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第53回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


人生最高のサプライズ

「人生最高のサプライズ」

長野県 N・Y(パート 50代)

 結婚式をしないのは、私自身の理由だった。
椎茸の専業農家だった実家はいつも家計が苦しく、四人兄弟の長女だった私は、妹達の学費も助けなければならなかった。過疎の進んだ田舎を離れて暮らす私は、経済的に苦しい両親に結婚式を挙げたいとは言えなかった。
 私達の結婚の報告は、会社の朝の朝礼で業務連絡のごとく課長から発表してもらうのみだった。自分の思いを貫き通したことなのに、彼の両親は「あなたにドレスも着せてやれなくて申し訳ない」と謝った。私を思いやってくれる優しい両親に感謝でいっぱいだった。
 結婚報告から約一か月後、課の皆が居酒屋で結婚を祝う会を企画してくれた。当日、課の仲間が自宅まで迎えに来てくれた。するとアイマスクとヘッドフォンを渡され、何も分からないまま車で移動することになった。静まりかえり居酒屋とは思えない場所でアイマスクを外されると、私は何か大量の光を体中に浴びていた。目を凝らすと正装した会社の皆が大勢笑いをこらえている。「これからお二人の結婚式を始めます」と同僚の声が聞こえ、Tシャツにジーンズの私は控室に連れていかれた。そこにはドレスが用意されていた。
「このドレスは仕事の後、皆で集まってコツコツ縫ったドレスなんだよ。ブーケはフラワーアレジメントを勉強しているKちゃんが作ったの」
休日返上で結婚式場スタッフと打ち合わせして段取りをし、ドレスを縫い、余興を練習。全てが手作りで、皆の知恵を絞って考えられた企画ばかり。会場中が優しさで包まれていた。出席者七十五人がそれぞれの役割を持ち、密かにこれほどまで壮大な計画が進められていたなんて。結婚式があげられたことよりも、誰かのために全身全霊で心を傾け、それを喜びにできる素晴らしい仲間に出逢えたことが何より嬉しかった。温かい仲間と一生忘れられない時間を共有できたことは、私達夫婦の心の財産となった。
あの夜、私達は世界で一番幸せな夫婦だった。