とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第53回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


特別な計らい

「特別な計らい」

東京都 Y・M(学生 10代)

 私の家族は、ひょっとして変わっているのかもしれない。そう気づいたのは確か小学三年の頃、家族旅行の最中だった。年の離れた兄が実家を離れることが決まり、家族全員では最後となる旅行に誰もが張り切っていた。
新品の一眼レフを手に、家族全員での写真を撮りまくる母。いつも以上にテンションを上げる姉と私。中でも、この旅行に最も力を入れていたのは父であった。家族全員のリクエストを予定に取り入れ、目的地へと安全に運ぶ。その強い使命感は、運転する父の背中から感じる程だった。
 時刻は二十時三十分。ボウリングをしたいという私のリクエストに応え、父はプランを微調整し、目的地へと車を走らせていた。ボウリング場までは後五分。よし、これなら一時間たっぷりプレイできる。そう思った瞬間だった。路上駐車していた車が突然、私達の前に飛び出してきたのだ。
 ガシャン……。幸い全員無傷だったものの、車は傷つき、警察官を呼ぶことに。綿密に立てていたプランが突然崩壊し、安全運転まで九対一の事故によって阻止された父は、いたたまれない程だった。しかし、家族全員が車内でどんより……となる訳にはいかなかった。現場検証が終わると、早速母は一眼レフを手に、警察官の元へ。幼い私を出しに、
「特別な家族旅行なんです。記念に撮って下さい」
と頼むや否や、
「こっちの方が東京タワーも綺麗に写るよ」と警察官もノリノリに。まずは事故車をバックに、家族写真を一枚。そしてもう一枚は、警察官と笑顔でパシャリ。
 警察官と、東京タワーと、私。その時の写真は今でも玄関に飾られ、我が家の明るさを象徴している。時に周りを巻き込みながら、最悪に思える状況をいとも容易くひっくり返してしまう。そんな家族の元で育てられてきたことを、写真は絶えず教えてくれるのだ。
この家族が味方だから大丈夫、いってらっしゃい。今日もあの時の思い出は、玄関で私の背中を押す。