とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第52回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


おぶちゃちゃ

「おぶちゃちゃ」

東京都 K・A(自営業 60代)

 娘が生まれる時に妻の出産に立ち会いました。それは出産という神秘の場に立ち会いたい、という思いともう一つ、妻が極度の痛がりなので、側にいてやりたかったからです。8時間弱の大健闘の末に娘が生まれました。
妻は汗だくで確実に大仕事を1つこなした、という充足感で満たされておりました。それで、確かに感動をし、白い分娩室のずっと上の方にいらっしゃるであろう神様に手を合わせもしましたが、すでに母親の顔になっている妻と比べて私の方は、昨日の自分とさほど変わらない様に感じました。
以前には、子供が出来ると親になり、父性も生まれるものだと思っておりましたが、どうやらそうではない事に少し戸惑いながらも妻に労いの言葉を掛け、病院を後にし帰宅しました。
時が経ち、娘が2才になる直前だったでしょうか、妻から「娘をお風呂に入れてやって!」と言われ、「お〜い おぶちゃちゃに入ろー!」と娘を誘いました。
当時我が家では風呂の事を「おぶちゃちゃ」と言っておりました。娘は「おぶちゃちゃ」が好きで、入る際にはお気に入りのおもちゃをあれこれと選んで持って入るのが常でした。
娘を湯船に入れ、しばらくした後に娘を洗い場に移し、娘の身体を洗い、次に自分の身体を洗い始めた時の事です。背中に何かが触れるので首を廻して見ると、娘が自分用の小さなタオルで私の背中をヨイショヨイショと洗ってくれようとしていたのです。私は感極まり声を詰まらせて少し震える声で「ありがとう!ありがとう!」と娘に言いました。その時に自分が父親になった!と初めて実感しました。
後になってよくよく考えると、その頃の幼児向けのテレビ番組の父親と一緒に風呂に入るという番組を観ていたからかも知れません。確かにお父さんの背中を子供が洗っているシーンもあった様に覚えております。それでもその娘の行為で父性実感したのも事実です。
その娘も現在38才になりました。