とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第52回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


心もセット

「心もセット」

熊本県 Y・M(無職 60代)

 初めて彼女と出会ったのは、同僚に教えてもらった美容院だった。まだ新人さんらしかった。
「御指名は?」
そう尋ねられたが、誰のことも知らない。
「どなたでも構いません」
そう言いながら後悔した。その新人さんに当たってしまったのだ。私で何人目? ちょっとびびった。
 彼女は確かにベテランとは言えなかった。技術も、人との対応も。それでも一生懸命だった。先輩に聞きながらも、一つ一つ丁寧にこなしていった。彼女の心臓の音が聞こえてきそうだった。
 私は覚悟を決めた。どんなになってもいいよ。たかが髪だ。
鏡に映る出来上がった頭を、二人でまじまじと見た。私がにっと笑うと、彼女も嬉しそうに笑った。
 それから、ずっと彼女にやってもらっている。彼女は、あの頃と何も変わっていない。もう、ベテランの域だが、シャンプーもカットもカラーもマッサージも、昔とちっとも変わらず黙々とやってくれる。一生懸命さが、今も伝わってくる。
「またいらして下さい」
すらりとした色の白い彼女は、にっこり微笑みながら深々とおじぎをする。
 髪だけでなく、心もセットしに、私はまた彼女に会いに行く。コロナで大変な時だが、がんばってほしい。マスク姿もステキな女性である。