とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第51回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


夏の日

「夏の日」

千葉県 K・T(主婦 40代)

 八月の天気のいい夕方、幼稚園年長の娘と夫が庭で洗車をしています。娘のまこは高圧洗浄機に興味津々。夫の横から「マコがやる!!」と言って奪い取ろうとしています。二人で車を洗いながら大声で笑い、水をかけ合いはしゃいでいます。そんな家族の良くある風景が私の「とっておきのワンシーン」です。
 家族と会うのは一カ月ぶりです。私は膵臓に持病があり今年に入って四回目の入院。この日は三時間だけ外出許可がもらえたのです。
二十七歳の時、腫瘍が見つかりました。「手術をして元気になって結婚しよう」その時夫が言ってくれ、それを目標に前に進めました。待望の赤ちゃんを授かることも出来ました。しかし病気はずっとついて来るのです。出産後からは緊急入院を繰り返しました。泣いている幼い娘を夫と両親に託して離れなければいけない……。母親として何も出来ず悔しくて情けなくて病室で声を殺して泣きました。
他の病気の方もそうなのかもしれませんが受け入れることがなかなか難しいのです。私も十六年間患って心も体も疲れてしまいました。今回の入院前も体調が悪く暗い気持ちで横になっていました。その時救ってくれたのは、まこでした。絵本を読んでくれたのです。まこは赤ちゃんの頃から絵本が大好きだったので一緒に図書館に行っては、たくさんの絵本を借りて読みました。あの頃は絵を見て開いていたまこが使えながらも平がなもカタカナも一生懸命読んでくれて涙がこぼれました。それを見たまこは、はっ!とした顔をして「ちょっとまってて」そう言うと頭を冷やす保冷剤と私の好きな飲み物のを持ってきてくれたのです。優しく育ったまこを誇らしく思いました。周りのみんなの愛情のおかげです。それと、私の子育ても情けないものなんかじゃなかった……。そう思えて余計に涙が溢れてしまいました。
 来週、大学病院への転院が決まりました。夕方の水しぶきの中、まこと夫の笑顔を見ながら新しい治療をする決意をしました。