とっておきのワンシーン
作品紹介

─ “思いやりの原点”って何だと思われますか? ───

思いやりの原点は共感。
相手に関心を持ち
相手の話や状況に共感することができれば、
相手の話や状況が自分のことのように感じられ、考えられ・・・、
自分が言って欲しいことや、自分もして欲しいことを、
言ったり、して差し上げたりできるんですね。

これからご覧頂くワンシーンに、皆さんは共感されるでしょうか・・・。
この作品紹介コーナーでは、最新の公募作品を紹介させて頂きます。

─ 第50回とっておきのワンシーン入賞作品の紹介 ───


見上げると、その笑顔

「見上げると、その笑顔」

岡山県 M・Y(会社員 40代)

 今の老人ホームに勤めて一年半が過ぎた。私は年配の方達の看護や介護をさせてもらうのが自分の性に合っていると自覚している。若くても年を重ねていても一人ひとりに個性があって、毎日が刺激的である。沢山おられる入居者さんの中にYさんという男性がいる。Yさんは大きい声で、よく怒る。腰が痛いから押し車を使い突進歩行をして来た。
時には他の入居者さんに「邪魔じゃ。よけ」と、横柄な態度をとることもある。一日の大半を医務室の前の椅子で過ごすYさんの目つきは悪く、口元もへの字……。当初は「何て感じの悪い人なんだろう」と思っていた。
「ヤマモト!!」と何故か怒鳴られる時もある。足が痛いと言われ軟膏を塗っていると、「子供はおるん?」「どこに住んどるん?」と話し掛けて来てくれた。出来る限り答える私。
フッと見上げると、今さっきまで大きな声を出していたYさんの顔は仏の様な笑顔になっていた。もう別人だ。「何て素敵な笑顔」と私も笑顔になっていた。だからって笑顔の持続時間は短い。本当によく怒る。
「何でそんなに怒るの?」と聞くと「怒っていない。声が大きいだけじゃ」と言う。けれど、その顔は怒っている。食べこぼしながら「子供が待っとるじゃろ。早く帰られ」と言うYさん。「飲むか?」と飲みさしのジュースを差し出してくれたYさん。私の心はホカホカする。その人の持っている魅力を、知る度に仕事の面白さを痛感する。出会いは財産だ。これからも元気に、その笑顔を沢山見せて欲しいと願う。ありがとう。